書籍

モンスターペイシェント 対策ハンドブック

なぜこれを書いたか、どう活用して欲しいか

“モンスター○○”…最近はそのようなラベリングが、そこそこでされることが多くなりました。”モンスター○○”はテレビの中だけの出来事ではありません。まさに”事件は現場で起きている”のです。

講演会で参加した方々に、「警察の動員をお願いしたことがありますか?」という質問をさせていただいています。思いの外、警察が出動した経験のある病院が多いのは事実です。しかしそれは氷山の一角で、公にはなっていない警察の出動を要請できないような暴力が病院内では起こっています。

当院でもこんなことがありました。時間外救急で外来で、患者さんが担当医に殴りかかりました。突然、殴りかかった。担当の先生は突然殴りかかられて、それがショックでそのあと診療出来ないという状況になりました。仕事も休まざるを得なくなりました。とてもまじめで優秀な先生であっただけに、その先生にとっても、病院にとっても、大げさではなく日本の医療界にとっても大きな損失となりました。

元々、当院には院内暴力に関するマニュアルがありました。しかし、このときにはまったく機能していませんでした。担当者を医療の現場の最前線に出す以上、病院はスタッフを守るために防衛対策をしています。しかし当時、それが形骸化していて、全く機能していなかったのです。

そこで病院として、スタッフが安全に医療サービスを提供するためには、どうすればよいのか?そしてマニュアルを決めただけではなく、どうやればマニュアルがうまく実行できるのか?それを一番の目的として、新たなマニュアルを策定することになりました。2008年末の話です。


著者 滝川 稚也

実践 生徒を眠らせない性教育授業

推薦の言葉

2011年(平成23年)の今、日本のスクールカウンセリングは大きな転換点を迎えつつある。

ひとつは、これまでのような個室内での「身の上相談風の面接」「問題の後始末の面接」から脱却して、「授業型カウンセリング」「予防・開発的スクールカウンセリング」を導入する時代になりつつあること。

この動きから生まれたのが、滝川稚也著の本書である。

授業型カウンセリングには「構成的グループエンカウンター」「サイコエジュケーション(心の教育)」など、10種を超えるものがある。産婦人科医の滝川は「まえがき」にあるような経緯で、これら新しいスクールカウンセリングの方法を活用し、その成果を語っている。
その骨子である、構成的グループエンカウンターのシェアリングを活用した情報提供の仕方は、子どもたちの「思考・感情・行動」の成長に役立つというところである。「こうしたらこうなる」「そうしたらそうならない」という事実を語ることも、スクールカウンセリングなのである。傾聴や共感だけで教育指導ができるものではない。その事を、本書は伝えている。
スクールカウンセリングの大きな転換点のもうひとつ、それはこれからのスクールカウンセリングは学校以外の諸機関とも連携しないとやっていけない時代が来たということである。
虐待、非行、性教育、子どもの携帯電話所有などへの対応がそれである。
文部科学省は「子どもを見守り育てるネットワーク」のプロジェクトを展開中であるが、その骨子は本書の示すように「医療の滝川が教育にサービスし、教育の國分が医療にサービスする」という交互乗り入れ・共同作業の図である。本書はそのさきがけといえる。

著者についての寸評で、本稿を閉じる。

滝川稚也さんは改めて言うまでもなく、産婦人科医が本業である。
医師もやはり人事異動があるようで、それまで全く足を踏み入れたことのない北海道に赴任されたことがあった。持ち前の暖かさを持ったコミュニケーション能力を発揮し、赴任先の西胆振(にしいぶり)地区では産婦人科医としてはもとより、上級教育カウンセラーとして学校関係者と緊密な連携を行い、思春期外来を開設して学校現場と医療の距離を縮めた。さらに北海道教育カウンセラー協会で養成講座の講師を依頼すると、時間をやりくりして青森、函館まで私達の講義を再履修した。

当時、滝川さんが「与えられた講義の時間中、先生方のように参加者が集中して眠らないような充実した講義をする自信がない」と語っていた事が記憶に新しい。

本書の原題にもなっている「生徒を眠らせない」は、まさに、講義に臨む際の心構えなのだろう。その甲斐あってか、講座では参加した教師の心をしっかりつかみ、彼らからの熱烈なラブコールが、本書執筆の大きな原動力となったと聞いている。このように、新しい試みを知的勇気に基づいて実践する医師が現れることが、これからの教育界にさらなる発展をもたらすことを期待する。

2011年初夏
國分康孝・國分久子

國分康孝(こくぶ やすたか)
NPO法人 日本教育カウンセラー協会会長。東京成徳大学名誉教授 元副学長 Phd

國分久子(こくぶ ひさこ)
日本教育カウンセリング学会常任理事。青森あけの星短期大学客員教授 M.A.

前書き

「性教育」とGoogleで検索すると、どれくらいヒットすると思いますか。
2010年12月31日現在で約1億5100万 件でした。
比べるべきではないと思いますが、「いじめ」では約 994万 件です。関心の強さは一目瞭然です。私的、公的、いろいろな性教育サイトがあります。皆さんがそれぞれのアプローチで、真剣に、性教育について考え、表現されています。その情熱には本当に頭が下がります。
私が性教育に携わってきた一番の理由は、私が女性専門医であり、医療の現場で正しい情報を知らなかったばかりに悲しい出来事に遭遇している女性たちの現実に、直面してきたからです。
女性だけでなく、男性も正しい情報を知っていたら大好きな人に悲しい思いをさせることを防ぐことができたと思われることが、とても多いのです。悲しい出来事に遭遇した女性たちに私は正しい情報を提供できますが、やはり限りがあり、何より、その悲しい出来事を未然に防ぐことはできません。現在は医療現場でも「未病」「予防教育」が見直されているように、性に関しても正しい情報を提供し、予防教育を浸透させることで、悲しい出来事を体験する女性が減るととももに、男性も正しい情報を得ることで愛する人の体と心を傷付ける加害者になることがなくなれば、と考えました。

正しい性の情報が、教育現場の教育関係者・生徒双方に普及していない、これが一番の問題であり、先生方と地域の医師が協力して性教育を行う、これこそ問題解決の一番の方法だと私は思います。
そこで問題になるのが、医師側の教育者としての臨み方なのです。

医師は先生方同様にとても真面目であり、健康と疾患に関する正しい情報を持っていますが、発達段階に応じてかみ砕いて伝えることが不得手だったりします。とにかく壇上から学生達に向かい、持てる知識全てを真面目に一生懸命に伝えようとしてしまう。そして一生懸命伝えようと情報量を増やせば増やすほど、残念ながらその熱意に反比例して、学生達は情報の洪水に溺れ、深い眠りへと誘われます。
わたしも性教育を担当しはじめた当初、聴講者であるほぼ全ての学生達を深い眠りへと誘ってしまったという苦い思い出があります。

試行錯誤を繰り返し、模索するなかで出会ったのが、國分康孝・久子両先生でした。

初めて両先生の講義を受けた時の感動は、今でも忘れられません。両先生の3時間ずつの講義は少しも眠くならず、それは私だけではなく会場にいた聴講者全てなのです。通常、モチベーションの高いグループであっても6時間の座学があれば眠くなってしまうのが当然の帰結だと考えます。しかし、この講義は引きつけられ、感動する素晴らしいものでした。
私が「教育カウンセラー」に出会った瞬間です。
講義の後縁があり、國分康孝・久子両先生に対面し、直接お話をさせていただく機会を得たことが、私の性教育手法のパラダイムシフトと、その手法を強い信念を持って継続し続けよう、という決意になりました。

女性専門医、臨床医として最新かつ最前線の正しい情報と、上級教育カウンセラー・ガイダンスカウンセラーとして学生・生徒の発達段階を考慮し、教育現場に配慮した形で、正しい性教育のひとつのアプローチをしていきたい。
それが悲しい思いをする人たちを少しでも減らすことにつながれば、私のやってきたことにも意義があるのだと、そう私は考えています。


著者 滝川 稚也

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